下限保証とは?制度の仕組みといらない理由について解説!

高還元SESには下限保証をアピールの1つにしている会社があります。

普通の会社ではなじみのない下限という言葉。高還元SESに下限保証はあったほうかいいのか?といった疑問に、この記事では

・下限保証の仕組み
・それほど重要視するべきでない理由

を解説したいと思います。

下限保証とは

ITの派遣、SESでは「月単価60万(精算幅:140h~180h)」といった契約が結ばれます。月に140h以上働けば派遣料金として60万支払われ、逆に140hを下回れば下回った時間に応じて減額するといった感じです(逆に180hを超えると増額)。

高還元SES=単価連動では下限(上記でいうところの140h)を下回ると派遣料金が減るため、給与または賞与が減るという理屈です。

給与が減るため客先常駐エンジニアは休みを取りづらいという問題があります。そこで月30hまでは減額分を会社が補填しますという制度が下限保証になります。

下限を下回るケース

下限保証を導入している企業が”下限保証があるから安心して有給休暇が取得できる”と宣伝していることがあります。

これは誤った情報です。

下限保証といっても適用すべきケース、適用されないケースがあります。どういったときに下限保証が適用されるか見ていきましょう。

有給休暇

下限を割る要因で一番多いのは有給休暇の取得ではないかなと思います。

“下限保証があるから安心して有給休暇が取得できる”とアピールしている高還元SESがいますが、そもそも有給休暇を取得を理由に月給や賞与を減額することは違法です

私の会社では有給休暇を取得すると賞与の査定にあたってマイナスに評価されてしまいます。会社は有休を取得しなかっただけ多く働いたのだから当然と言っていますが、これは法律上問題ないのでしょうか。
私の会社では有給休暇を取得すると賞与の査定にあたってマイナスに評価されてしまいます。会社は有休を取得しなかっただけ多く働いたのだから当然と言っていますが、これは法律上問題ないのでしょうか。について紹介しています。

有給休暇は労働者の健康や心身のリフレッシュを目的に法律で定められていて、有給の取得を理由に賃金を下げるのは有給の取得を妨害しているということになるため禁止されています。

下記表は派遣会社のマージンの内訳です。上が会社の取り分=マージンです。このマージンにある派遣社員有給費用(濃い青)が派遣社員が有給休暇を取得した際に会社が給与補填する費用になります。
SES会社も同様です。下限保証のない会社でも有給に関しては予算を確保して補填していることになります。

引用元:日本人材派遣協会 https://www.jassa.or.jp/know/data/

賃金が下がるため下限保証がないと有給が取得しづらいのではなく、法令を守らず有給費用を会社が負担しないことが原因です。下限保証があろうがなかろうが有給取得費用は全額会社が負担するものです。
よって有給休暇は下限保証とは別途会社が負担し、下限保証の対象外とすることが適切です。

特別休暇

夏季休暇や冠婚葬祭など会社独自に設定している休暇を特別休暇といいます。特別休暇は会社が有給/無休を決めることができます。冠婚葬祭は有給、それ以外は無給としているケースが多いようです。一般的に月給日給制の会社の場合は無給の特別休暇を取得しても月給は変わらないし賞与の評価にも影響がない場合がほとんどのようです。

単価連動を取り入れている高還元SESの場合はどうでしょうか?特別休暇(有給)は有給と同じ扱いなのでここでは特別休暇(無給)について考えてみたいと思います。

特別休暇(無給)を取得したことで下限を下回り、下限保証で補填というのは十分あり得ます。ただし問題点が2つあります。

①マッチポンプ

会社「夏季休暇取得していいよ!」
会社「夏季休暇で下限下回ったから賞与減額ね!」
会社「下限保証があるから30h分は会社が補填するね!」

福利厚生として夏季休暇など特別休暇を導入したのに取得によって賃金が減る。それを補うために下限保証を取り入れた。一見筋が通っているように見えますがすごく面倒なことをしていることがわかります。

②客先常駐エンジニア以外と取り扱いが異なる

内勤のエンジニアや事務、営業は下限を下回ることで賃金が下がることはありません。なので特別休暇(無給)の取得で賃金が下がるのは客先常駐エンジニアだけということになります。

福利厚生というのは従業員全員を対象とし平等に取り扱われることが原則です。特別休暇を取得することで客先常駐エンジニアだけが賃金の減少が発生するのは問題があるとみなされる可能性があります。

特別休暇は下限保証でなく有給扱いがベスト

以上のことを踏まえると特別休暇(無給)に下限保証を適用することは適さないと考えています。単価連動のSESが福利厚生として特別休暇を導入する際は有給扱いがベストだと思います。有給扱いであれば社員ごとに特別休暇の取り扱いが異なることもなく、福利厚生なのに賃金が減ることもなく納得感はあると思います。

下限が高い

精算幅の下限は140hで契約することが多いです。これは土日祝休みの時、月の稼働日が最低でも18日であるためです(8h×18日=144h)。
下限が140hのとき稼働日を休まず働いた場合、まず下限を下回ることはありません。下表は2022年のみですが過去5年さかのぼっても稼働日が18日を下回る月はありません。

2022年の土日祝が休みの場合の稼働日
下限が150hを超えると下限を下回る月がでてくる

といっても中には140hを超えて契約となる場合があります。これはエンジニアにはどうしようもないので下限保証が適切に適用されるパターンだと思います。

下限を下回るということは会社も売上が下がるので基本的に営業は精算幅の交渉を行います。今は有給取得義務もあるので高くても下限は150hがMAXだと思います(個人的に150hを超えてとなると参画はお断りが視野に入ってきます)。

下限150hで契約したとき2022年であれば年間で6h下限を割ります。このくらいであれば下限保証がなくても収入への影響は少なく、また残業で対応するのもそれほど大変ではありません。

ちなみに下限保証があった場合の補填額ですが、単価60万のとき控除額は約4,000円。年間で24,000円(4,000円×6h)の売上が減ります。還元率が70%の会社であれば24,000×0.7=16,800円を下限保証として会社が負担することになります。
これが160hとなると補填額は89,600円(4,000円×32h×0.7)と大分高くなります。これは営業が弱いといった問題で下限保証の有無とは別途考えるべきです。

欠勤・遅刻・早退

結論から言うと欠勤・遅刻・早退の場合下限保証は適用されません

労働は「ノーワーク・ノーペイの原則」があり、労働しなかった場合賃金の支払いは発生しないの言うのが基本の考えです。就業規則(賃金規定)にも「欠勤・遅刻・早退の場合賃金を控除(減額)する」という規定が書かれていると思います。
もし欠勤等に下限保証が適用されるとなると、補填により会社の利益がダウンしているのに賃金はそのままとなります。多くの社員がこの仕組みを利用してしまうと会社が成り立たなくなります。ゆえに欠勤等には下限保証は適用されません。

自社業務

客先は休みだけど自社は出社日の場合があります。このとき休みを取得しない場合たいていは社内業務あるいは自宅学習を行うことになります。当然客先の仕事ではありませんので稼働時間として計上されません。一方自宅学習であっても会社からの指示で従業員は業務を行っています。労働をしていないわけではありません。そのため下限保証の対象に含めるのは適しません。
自社業務で下限を割ったとしても下限保証からは対象外とし、別途会社が賃金を保証する必要があります。

まとめ

種類下限保証補足
有給休暇対象外下限保証とは別に会社負担する
特別休暇適さない下限保証で補填ではなく、特別休暇は有給扱いがベスト
下限が高い対象下限保証対象として適する。ただし補填対象は年間10h程度
欠勤・遅刻・早退対象外ノーワーク・ノーペイの原則により対象外
自社業務対象外下限保証とは別に会社負担する

特別休暇が無給/有給かは会社ごとに異なりますが、個人的には有給扱いであるべきと考えています。そうなると下限保証の対象になるのは”下限が高い”ケースのみとなります。その下限が高いケースも営業がしっかり交渉し精算幅を適切な条件で契約することで回避できます。そのため下限保証がないからといって安心して休めないといったことはありません。下限保証がなくても営業の質と休暇制度が正しく運用されていることでしっかりと休みは取れます。
以上のことから下限保証は“ないよりはましだけど高還元SESを選ぶ決めてとはならない”ということになります。

それよりも下限保証を取り入れている会社がどういった場合に下限保証の対象にしているかを確認すべきです。例えば下限保証による補填額が高いということは下限が高い=営業力が弱い、特別休暇を客先常駐エンジニアだけ不利益な扱いにしていることなどが考えられます。
下限保証の有無でなくその中身を分析することでその会社のエンジニアに対する扱いや、営業能力といった点を読み解くことが重要だと思います。

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