「SES管理システム」はなぜ失敗するのか①ー業務効率化システム編ー

SES会社がそのノウハウを生かし「SES向け業務効率化システム」を外販するのも珍しくありません。

しかし現状、中長期的にシェア獲得に成功したサービスは確認できません。

なぜ SES 向けの業務効率化システムは“伸びない”のか?
本記事では、その「構造的な理由」を考えたいと思います。

💡
7,000社以上あるSES企業の中で、
給与の仕組みを公開している数少ない会社


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  1. 業務効率化システムとは?
    1. 勤怠管理システム
    2. 契約・請求管理システム
    3. 案件管理・案件配信システム
  2. どれくらい売れれば成功なのか?
    1. 市場規模(TAM)の簡易試算
      1. 市場規模(年間売上)
    2. ARR 1 億円
      1. SaaSの成功ライン・失敗ラインの基準
      2. どれくらいでARR 1 億円を達成すべきか?
  3. 実際の契約数と売上のリアル
    1. ターゲットはどこなのか?
    2. 実際どのくらい売れるのか?
      1. なぜ3年目から伸びなくなるのか?
      2. 今後の見通し
  4. SES向け業務効率化システムが稼げない理由
    1. 市場規模が小さい
    2. ターゲット層が狭い
      1. ターゲットは「200名以下の中小SES」
      2. 導入余地が高いのは「30〜100名の新興SES」
        1. SAM(サービス提供可能市場)の試算
    3. ビジネスモデルに合致しない
    4. レッドオーシャン化している
      1. 毎年新しいSES管理システムが登場する
      2. 機能の差別化が極めて難しい
      3. 大手SaaSが強すぎる
        1. 案件管理も代替可能
      4. 企業の戦略のズレ
    5. 単価を上げづらい
    6. バックオフィスの効率化の優先度が低い
      1. SESにおける経営課題の優先度
    7. 営業情報漏洩リスクがある
      1. 契約で縛っても「盗まれない保証」にはならない
      2. バレにくい&証明が極めて困難
      3. 中小企業ほど“経営者の意向で何でもできてしまう”
      4. 営業情報はSES企業の「生命線」
      5. 営業情報を預けるリスクは“想像以上に大きい”
    8. 導入によるデメリットも多い
      1. 2重勤怠
      2. 案件登録の手間
      3. システム導入が新しい業務を生み出す
    9. 歴史的に見て成功したサービスが存在しない
  5. なぜSES会社は業務効率化システムを作りたがるのか?
    1. バックオフィス業務は「身近で企画しやすい」
    2. 開発費を「自社の経費」で処理できる安心感
    3. 自社での成功体験を“市場ニーズ”と誤認しやすい
    4. 「SES向け特化」という言葉の魔力
    5. まとめ:作りたくなるのは“合理的な誤解”の積み重ね
  6. 成功するにはどうすればいいか?
    1. 開発コストを徹底的に削減する
    2. 小さく分けて売る
    3. 連携機能を入れない
    4. まとめ:成功の鍵は“引き算”にある

業務効率化システムとは?

業務効率化システムとは、SES企業のバックオフィス業務を自動化・軽減するシステム全般を指します。
主な機能は以下の3つです。


勤怠管理システム

  • エンジニアの月次勤怠提出
  • 承認フロー
  • 有給申請・残業申請
  • 月次締め処理

その名の通りですね。エンジニアの勤怠状況を管理します。
一般的な機能に加え残業が増えていればアラートをだすなどエンジニアの健康面の管理にも役立てることができます。


契約・請求管理システム

  • 契約内容
  • 単価
  • 稼働時間・控除
  • 月次請求書の自動作成
  • 入金管理

取引先との契約内容(単価・精算条件・期間など)と、月次の請求処理(勤怠入力・承認・請求書発行)を一元管理する仕組みです。
契約変更や勤怠差異を自動で反映し、請求漏れ・請求誤りを防いでバックオフィス業務を大幅に効率化します。

エンジニア向けとしてマイページで契約内容や単価を公開することで透明性を高めることができます。


案件管理・案件配信システム

  • 営業が案件を登録
  • エンジニアに配信
  • 参画希望
  • 面談調整
  • 稼働開始管理

企業が保有する案件情報を一元管理し、エンジニアへの提案から承諾までをワンストップで完結させる仕組みです。
案件の鮮度管理やスキルマッチング、配信履歴の追跡を自動化し、紹介漏れや手作業を大幅に削減します。


どれくらい売れれば成功なのか?

ここでは、「そもそも市場にどれくらいの売上余地があるのか」
「SaaSとして成功といえるラインはどこか」 を簡潔に説明します。

市場規模(TAM)の簡易試算

まず、対象となるSES企業がどれくらい存在するかを見る必要があります。

  • 下限:7,000社
     → 下記記事で試算した全国のSES会社数の下限を採用しています。
  • 上限:20,000社
     → 「SES会社数」検索すると10,000~20,000社と出るのでこの上限を採用します。

また、SES会社の平均社員数は約30名とされているため、
利用ユーザー数(エンジニア+営業+バックオフィス) は以下のように推定できます。

  • 下限:7,000社 × 30名 ≒ 21万人
  • 上限:20,000社 × 30名 ≒ 60万人

したがって、
SES企業向けSaaSの潜在ユーザー数は 21万〜60万人規模
となります。

市場規模(年間売上)

TAM(総獲得可能市場規模)を試算します

1ユーザー:1,000円/月 として計算すると…

・7,000社 × 30名 × 1,000円 × 12ヶ月
 → 約25億円
・20,000社 × 30名 × 1,000円 × 12ヶ月
 → 約72億円

つまり、SES向け業務効率化SaaSの市場規模は 25〜70億円程度 に留まります。

参考までに、福岡県の農産物の年間産出額は約 2,000億円
地域密着型メーカーや部品製造メーカーであれば 売上100億円規模 の企業も多数存在します。

これらと比較しても、SESにターゲットを絞ったSaaS市場は 極めて小規模 であることが分かります。

小規模事業者が多いSES業界でSaaSを成長させるには、
「限られた市場で圧倒的なシェアを獲得する」 ことが重要となります。


ARR 1 億円

ARRとは?

SaaSの世界では
ARR(年間経常収益:Annual Recurring Revenue) が重要指標とされています。

SaaSの“毎年安定して入ってくる売上高”を指す指標 です。

たとえば、
月100万円のサブスク売上があれば年間1,200万円のARRになります。

ARRはなぜ重要なのか?

SaaSは一度契約すれば毎月売上が積み上がる「ストック型」のため、
企業価値は主にARRを基準に判断されます。

SaaSの成功ライン・失敗ラインの基準

SaaS事業では一般的に次の基準が使われます。

  • ARR 1億円:合格ライン(小規模SaaSの成功)
  • ARR 3億円:明確な成功(安定的な事業として成立)
  • ARR 5〜10億円:成長企業(シリーズA相当)

逆に次の状態は“失敗”とみなされます。

  • ARR 5,000万円未満が数年続く
  • 営業コスト>売上 で回収不能
  • 保守コストの増加で赤字が慢性化

SES市場はそもそもTAMが25〜70億しかないため、
ARR1億でも市場の2~5%とかなり大きなシェアを取らなければ到達できません。

既存のSaasのシェアはどのくらい?

例えばラクスの楽楽シリーズは
2023時点で楽楽精算が累計15000社、楽楽明細が累計8000社
全国の企業数は約368万社。そのうち中小企業は336万社、これが主な市場となるわけですが。単純に計算するとシェアは0.4%となります。

クラウド型経費精算システム「楽楽精算」累計導入社数15,000社、電子請求書発行システム「楽楽明細」累計導入社数8,000社を突破
クラウド型経費精算システム「楽楽精算」は、2023年9月末時点で累計導入社数15,000社を突破、電子請求書発行システム「楽楽明細」も2023年9月末時点で累計導入社数8,000社を突破いたしました。

どれくらいでARR 1 億円を達成すべきか?

  • 速い会社:2年程度でARR 1 億に到達
  • 一般的な成功ライン:5年以内に ARR 1 億を達成

これが、投資家や事業評価の“最低限の成功ライン”といわれています。

5年経過しても ARR1億に届かない場合、SaaSでは「事業の抜本見直し」または「縮小・撤退」が判断ラインになります。
プロダクトの需要が弱い、または市場が小さすぎる可能性が高く、機能の絞り込み・別領域への転換・人員削減などの戦略変更が必要になります。
これを放置すると赤字が累積し、会社全体の経営を圧迫してしまいます。


実際の契約数と売上のリアル

「実際、このシステムってどれくらい売れるの?」と気になりますよね。
ここではターゲット企業層と現実の販売規模について考えていきます。


ターゲットはどこなのか?

SES企業は全国に多く見えますが、
実際に業務効率化システムを導入する対象層はごくわずか です。

  • ✔ 大企業(200名〜)
    既に独自基幹システムを導入済みのところが多く。システムの導入は難しい。
  • ✔ 中堅企業(100〜200名)
    何らかのSaaSを導入済みのところも多くシステムの乗り換えのハードルは高い。
  • ✔ 小規模(30〜100名)
    人が増えてきてシステムの導入を検討している会社も多くメインターゲット層となる。
  • ✔ 超小規模(〜30名)
    導入余地あり。ただしExcelで十分という会社も少なくない。

200名以下のSES企業が主なターゲット層になりますが、その多くは小規模事業者です。
そのため契約単価が小さく、ARR1億円を達成するには数百社〜規模での導入が必要になります。
SaaSとしてARR1億円を実現するのは非常に難度の高い領域といえます。


実際どのくらい売れるのか?

1年目に10社、2年目も10社と「順調に見える」時期はありますが、3年目から急激に伸びが止まり、それ以降は年に1〜3社の新規契約が限界というケースが一般的です。

最終的には 5年で累計30社前後、ユーザー数2,000〜3,000名程度、ARRで2,400~3,600万が頭打ちライン と考えるのが現実的です。


なぜ3年目から伸びなくなるのか?

最初の1〜2年は、SES業界特有の“横のつながり”が強く影響します。
社長同士のつながり、営業同士の知り合い、紹介…こうしたネットワークで10〜20社までは比較的スムーズに契約が増えます。

2年ほどで「知り合いの知り合い」まで売り切り、そこを過ぎると 面識のない企業に買ってもらう“営業本番”に突入 します。
ここから契約数は激減し、年1〜3社ペースになるというのが典型的なパターンです。


今後の見通し

既存契約企業の社員数が増えれば多少は売上も伸びますが、
新規契約が増えない限り、売上成長は限定的 です。
市場規模が小さいため、ARR1億やARR3億を目指すには構造的に無理が生じます。

そのため多くの企業では、

  • 開発規模の縮小
  • 機能の絞り込み
  • SaaS戦略そのものの見直し

といった意思決定が必要になっていきます。

SES向け業務効率化システムが稼げない理由

ここでは、SES会社の作ったSES向け業務効率化システムが“構造的に伸びない理由”を挙げます。

市場規模が小さい

TAM(対象社員数)は 20万〜60万人程度。
1人月1000円としても、

市場規模 20〜70億円程度

SaaSとしては非常に小規模で、
競争が発生した瞬間に市場が枯渇します。


ターゲット層が狭い

SES企業全体では 20,000社 とも言われますが、
業務効率化システムを導入してくれる企業はここからさらに大きく絞られます。

ターゲットは「200名以下の中小SES」

まず、システム導入の可能性がある層は
社員数200名以下の中小SES が中心です。(ターゲットはどこなのか?)

大手はすでに何らかの基幹システムを導入済みで、
そこそこの中小企業でも汎用SaaS(マネーフォワード、ジョブカン等)を導入しておりメインターゲットにはなりにくいのが現状です。

導入余地が高いのは「30〜100名の新興SES」

さらに対象を絞ると、システムを導入しやすい企業には共通点があります。

導入しやすい企業の特徴
・まだシステムを導入していない
・急成長しており、管理が追いつかない

これらを満たすのは、
起業1年で社員数30名、3年で100名へ成長するような“新興SES” が中心です。

理由は以下の通りです。


なぜ30名以下は対象になりにくいのか?

社員数が 30名以下の場合,

  • 工数削減のメリットが小さい
  • Excel で管理できる
  • 導入コストが負担感につながる

そのため システム導入の動機が非常に弱い 層です。


なぜ30〜100名の成長企業が本命なのか?

一方で、成長中の企業は

  • 月次勤怠・請求が急激に増える
  • 社内ルールがまだ固まっていない
  • システム導入に心理的抵抗がない

このため 業務効率化SaaSの“最も刺さりやすい層” と言えます。

逆に、長く30〜100名規模を維持している企業は
すでに業務が安定化しているため、
新システムで業務フローを壊されることを嫌がる 傾向があります。

SAM(サービス提供可能市場)の試算

業界では「SES企業は毎年500社ほど誕生する」とも言われています。

そのうち、順調に採用が進み
“30〜100名規模に到達できるのは約1割” と仮定すると…

  • 年間 500社 × 成長成功率10% = 50社
  • 5年間の累計:250社

SAM(実際にサービス提供可能な市場):約250社

20,000社という大きな数字が語られがちですが、
実際に狙える市場は 全体の1.0%程度 にすぎません。
さらにいえば1割がこの規模に成長できる確率は楽観的で、実際は2〜5%ともいわれます。
つまりは規模はもっと小さいと考えられます。


実際に獲得できるのは “年1〜3社” が妥当

SAMが250社であることを踏まえると、
実際に獲得できる顧客数は多くて 年1〜3社

5年間で累計30社前後というラインはきわめて現実的です。

ビジネスモデルに合致しない

SESといっても一言に行ってもビジネスモデルは大きく異なります。ここでは代表的な3つのビジネスモデルを紹介します。

SESタイプ特徴必要な管理システム
請負(受託)特定の顧客と契約し、複数名で開発プロジェクトを請け負うタイプ。
客先に常駐して体制で開発支援を行うケースも多い。
・顧客開拓・提案管理・案件進行の可視化のため
CRM/SFA(営業支援システム)
・工数・稼働の管理のため
工数管理システム
仲介自社で獲得した案件を他社SESへ流し、マージンを得るビジネスモデル。
エンジニア不足を埋める “調整役” の役割。
・案件側と要員側の両方の情報管理が必要
CRM/SFA(営業支援システム)
常駐案件は仲介から紹介を受け、自社は採用に注力するモデル。
一人常駐も多く、請求先の数が多い。
人の出入りが激しく、案件管理・勤怠・請求の工数が多い。
高還元SES・新SESの多くがこのタイプ。
・案件管理・勤怠・契約・請求の負荷が大きい
業務効率化システム(勤怠・契約・請求・案件管理)

このなかで「業務効率化システム」が刺さるのが「常駐タイプ」です。大量の案件、採用を支える屋台骨として機能します。

一方で請負や仲介タイプは顧客情報の管理に注力するためバックオフィス業務の効率化は優先度は下がりがちです。

「業務効率化システム」はSES全般でなく、特に常駐タイプに特化したシステムとなります。
このせいでさらに需要は低くなってしまいます。


レッドオーシャン化している

業務効率化システム(SES向け管理システム)が伸びない要因の1つは、
市場が完全に レッドオーシャン化している ことです。
なぜここまで競争が激しいのか、理由を整理します。


毎年新しいSES管理システムが登場する

バックオフィス業務は、SES会社にとって身近で理解しやすい領域です。
そのため参入障壁は非常に低く、
SES企業が「自社用の管理ツールを商品化して販売」 しています。

結果として、
機能の似た小規模サービスが次々立ち上がり、
業界全体が飽和状態になっています。


機能の差別化が極めて難しい

SES向けの管理システムは扱う領域が限られており、
最終的にはほとんど同じ機能に収束していきます。

  • 勤怠管理
  • 契約管理
  • 請求管理
  • 案件管理

これらは業界固有の差が出にくいため、
他社製品と明確な差別化ポイントを作ることがほぼ不可能 です。

ニッチに特化したつもりでも、
お客さんから見れば 「よくある管理システムの一つ」 にしか映りません。


大手SaaSが強すぎる

勤怠・給与・会計・経費精算といった汎用領域には、
すでに次のような巨大プレイヤーが存在します。

  • freee
  • マネーフォワード
  • SmartHR
  • ジョブカン
  • 楽楽シリーズ(ラクス)

これらの企業は
資金力・ブランド力・営業力・機能の幅
どれを取っても圧倒的で、
SES特化の小規模SaaSが戦える土俵ではありません。

SES側から見ても、
「どうせ使うなら大手の方が安心」
という心理が働くため、SES特化の優位性は限られます。

案件管理も代替可能

SES管理システムの中核機能といえば 案件管理 ですが、
この領域も完全な“独自領域”とは言えません。

大手SaaSはすでに 販売管理システム(例:freee販売) を提供しており、
案件情報の管理であれば 一定レベルまで代替可能 です。

SES向け管理システムの唯一の強みは、
上下限精算などSES特有のルールに対応している点 にあります。

汎用の販売管理システムでは、この部分を実現するために
カスタマイズが必要になるケースが多い──
これが、かろうじてSES特化システムが持っている差別化要素です。


企業の戦略のズレ

多くのSES企業は、
「SESに特化したニッチなシステムを作れば独占できる」
という発想で業務管理システムを開発します。

しかし実際のユーザーである中小SESの視点はまったく違います。

  • 選択肢が多すぎて、どれも同じに見える
  • よく知られた大手システムのほうが安心
  • “SES特化”のメリットが分かりにくい

その結果、開発側が想定したような「ニッチ市場で独占」は成立しません。

ユーザーは結局、
大手システムも含めた“広い市場”で比較して選びます

開発側は
「ニッチ特化→独占」という戦略を描いていたにもかかわらず、

ユーザーは大手も含めた広い選択肢の中で比較してしまう。

つまり本来は“ニッチ市場で戦う”想定だったのに、
実際は 大手のプラットフォームと同じ土俵に立たされる という矛盾が起きます。

単価を上げづらい

市場規模が小さい(20〜70億規模)にもかかわらず、
参入企業が多いため、
どうしても 低価格競争 に巻き込まれます。

  • 1人 1,000円
  • 1社 数万円
  • 無料プラン付き

というような“安さ勝負”になると、
小規模SaaSは開発コストを回収できなくなります。

小さな市場 × 多数の競合 × 低価格化
という最悪の組み合わせが発生しています。


バックオフィスの効率化の優先度が低い

SESビジネスは 「売上=(単価 − 給与)× 稼働人数」 で成立する、
極めてシンプルなモデルですが、その分 優先すべき経営課題の順番 が明確です。

SESにおける経営課題の優先度

1位:営業(案件獲得)
 案件がなければ売上ゼロ。稼働率も単価も、最終的には営業力で決まります。
2位:採用
 「人=商品」なので、採用が伸びなければ売上も頭打ちになります。
3位:商流
 同じ単価でも商流によって粗利が大きく変わるため、上流との直接取引が重要です。
4位:単価
 単価アップはそのまま利益に直結します。信頼関係・スキル・営業力が影響します。
5位:稼働率
 稼働率が数%落ちるだけで利益が吹き飛ぶため、待機期間をいかに減らすかがポイントです
6位:管理効率化
 SESは他業種より管理工程が少なく、Excelでも十分回るケースが多いため、優先度は低くなります。
7位:教育・育成
 短期では売上に直結しませんが、単価アップと離職率低下につながる中長期の投資です。

ちょっと数字で考えてみましょう。

10人採用して、単価60万円で稼働してくれたら――
年間7,200万円の売上、少なくとも粗利で約1,400万円 生まれます。
これだけで会社はかなり前に進みます。

一方、バックオフィス効率化はどうかと言うと…
100名規模でも「事務が1人減るかどうか」くらいで、
人件費400万円 → システム使用料120万円 に変わって
増える利益は せいぜい280万円ほど(しかも実際はもっと小さい)。

つまり、

効率化で数百万円浮かせるより、採用と営業で数千万円つくるほうが圧倒的に早い。

これが、
なぜ管理効率化が“最後の課題”になるのか
というシンプルな理由です。


営業情報漏洩リスクがある

SES会社の作った「管理システム」を使う最大のリスクが
“運営会社がデータを盗み見ていても防ぎようがない” という点です。

契約で縛っても「盗まれない保証」にはならない

利用規約や契約書に「データは閲覧しません」と書かれていても、
実際に閲覧されていないことは証明できません。

人間が運営する以上、

  • 経営者が見たくなる
  • 営業責任者が勝手に見る
  • 社内の1人がこっそり見る

こうしたリスクはゼロになりません。


バレにくい&証明が極めて困難

営業情報の盗み見は “気づきにくい” × “証明しにくい” という最悪の組み合わせです。

  • 盗まれていることに気づく必要がある
  • 気づいても、それを盗んでいる“相手自身”に問い合わせるしかない
  • ログの改ざんも内部なら容易
  • 仮に証明できても損害賠償はごく少額

つまり、

なぜか競合があなたの案件情報をやたら知っている気がしても、証明できない。

こういう世界です。


中小企業ほど“経営者の意向で何でもできてしまう”

特にSES管理システムを作っている会社は、
中小SES企業がであることが多く、ここに最大のリスクがあります。

  • ガバナンスがゆるい
  • 監査体制が弱い
  • 経営者の判断でデータ閲覧できる環境
  • 社内権限の管理が曖昧
  • 悪意のある従業員を排除しきれない

大企業のような厳しい管理体制がないため、
情報管理リスクは実質的に“信頼ベース” です。


営業情報はSES企業の「生命線」

しかも、案件とエンジニアの紐づけ情報は
競合に知られたら致命傷になり得る営業資産 です。

  • 単価
  • 商流
  • スキル
  • 年齢
  • 稼働タイミング
  • 案件の詳細(プライムかどうか)

こうした情報が他社に漏れれば、
単価交渉・商流・採用・既存顧客関係などに直接影響します。


営業情報を預けるリスクは“想像以上に大きい”

  • 契約ではリスクはゼロにならない
  • バレにくいし証明できない
  • 中小企業はガバナンスが弱くリスクが高い
  • 営業情報は漏洩したら事業そのものにダメージが出る

このため、

営業情報が“会社の強み”になっている企業ほど、SES会社の作った管理システムを入れたがらない。

という構造が生まれています。

営業情報に価値が低い会社は導入メリットが大きい
ほとんどのSES企業は競合他社の管理システムを入れることに積極的ではありません。
ただし例外もあります。
それが
”案件をBPに依存しているSESです”
・案件がBPネットワークを通じて流れてくる
・“守るべき独自案件”が少ない
・営業情報自体に競争優位性がない
こうした会社にとっては、
案件管理の効率化メリットのほうが大きくなりやすい です。

導入によるデメリットも多い

業務効率化システムはメリットだけが語られがちですが、
現場で“確実に不満が出る”デメリット も存在します。
ここが普及を妨げる大きな理由のひとつになります。


2重勤怠

SESのエンジニアは、
基本的に「客先の勤怠システム」で出退勤・工数を入力します。

そこに新たに 自社の勤怠入力が追加される とこうなります:

  • 客先勤怠:必須
  • 自社勤怠:自社の都合で追加
  • 完全に二度手間

エンジニアからすると、

「なんで自社都合の入力を増やすの?」
「現場は忙しいのに…」

と、不満が漏れることも...


案件登録の手間

案件は 鮮度が命 で、以下の特徴があります:

  • 毎日大量に流れてくる
  • 多くは「決まらない」「消える」「すでに埋まっている」
  • 寿命が短い(数日~数週間)

これをわざわざシステムに登録して
「案件一覧」を作っても、

9割は“死に案件”になる

結果、
登録の手間に対し効果が小さく、
営業・事務どちらからも不評になります。

AIでの自動取り込みもありますが費用が上がるデメリットとの相談となります。


システム導入が新しい業務を生み出す

SaaSを入れてすべての業務が短縮するわけでなく新しい業務も発生します

  • マスタ登録
  • トラブル対応
  • 定期メンテ・データ整理
  • 仕様変更への対応

これ以外にSaasを使いこなすための手順書の作成、更新など既存の業務の手間が減った分、新たに発生する業務も一定数存在します。


歴史的に見て成功したサービスが存在しない

ここで、少し視点を広げて「歴史」を見てみましょう。

SaaS市場が本格的に広がり始めたのは 2010 年代。
今では大手となった企業が勤怠・会計・労務などのクラウドサービスを次々と提供し、
市場全体が一気に加速した時期です。

では、同じ頃に登場した SES管理システムはどうだったのか?

答えはシンプルです。

これまで “成功した” と呼べるサービスは一つもありません。

なぜか?理由はこれまで述べてきた通りです。

・市場規模が小さい
・大手の汎用システムと競合する
・低価格競争に巻き込まれる
・SESの多様なビジネスモデルすべてに適応できない
・運営会社がSESである以上、営業情報漏洩リスクが避けられない

結果として、

参入 → 少し売れる → 伸び悩む → 消える

このサイクルが10年以上繰り返されています。

これは“たまたま失敗した”のではなく
構造的に成功しにくい市場 だということが言えます。

そして、重要なのはここです。

歴史的に見ても、成功モデルが1つも存在しない。

これは、
「戦略が悪かった」というレベルではなく、
「市場の本質がそうさせている」ということ。

つまり、SES管理システムは
構造的に勝ち筋が極めて少ないドメイン と言えるのではないでしょうか。

なぜSES会社は業務効率化システムを作りたがるのか?

歴史的に見ても成功例のない管理システムの開発にSES会社はなぜ乗り出すのでしょうか?

それにはいくつかの “そう思いやすい理由” があると考えられます。


バックオフィス業務は「身近で企画しやすい」

SES企業が最も身近に感じるのは 自社のバックオフィス業務 です。

  • 勤怠をまとめて
  • 契約書を作って
  • 請求書を発行して
  • 入金を管理して…

目の前に課題があるので、
“ここを効率化すれば売れるんじゃないか?”
という安易な発想が生まれやすい。

しかし実際は
他社も同じことを考えて同じものを作っている。

バックオフィスは“身近”である分、誰でも思いついている。


開発費を「自社の経費」で処理できる安心感

もう一つの大きな要因は、
開発費を事業投資ではなく“経費”として処理できること。

費用面の心理的ハードルが低いため、

  • 売れなくても自社で使えば無駄にならない
  • 効率化のための投資だった、と説明できる

こうして、
“開発しても痛手が小さく見える” という錯覚にハマります。

既存の汎用システムを使えば使用料で数十万/月だったのに

結果だけ見ると
数千万円〜億円かけて社内システムの焼き直しをしただけ

というケースもあり得ます。売り上げが伴わないとはそういうことです。


自社での成功体験を“市場ニーズ”と誤認しやすい

自社でシステムを作ったら非常に便利になった――
こうした成功体験を持つ企業は少なくありません。

この経験から、

「うちが困っていたのだから、他社も同じはずだ」

と感じてしまうのも自然な流れかもしれません。

しかし実際には、
“必要だと思っている会社” と “導入する会社” は一致しません。

  • 競合が作ったシステムを警戒する企業も多い
  • 営業情報を預けたくないという心理が強い
  • 社内の業務フローを変えることに抵抗がある

つまり、
「需要がある=導入される」わけではない
という根本的な構造の違いがあります。


「SES向け特化」という言葉の魔力

汎用の勤怠・請求システムではカバーできない
“SES特有の機能” を実装すれば勝てるのではないか、
と考えられるケースも多いでしょう。

特化することで差別化できるように感じられるため、
方向性としては理解できますが、
実際には市場規模が小さくなるというデメリットも同時に発生します。

結果として、

  • 特化しすぎてターゲットが減る
  • 市場規模が想定より小さくなる

といったギャップが生まれやすいと考えられます。

つまり、

特化しすぎると“売れないニッチ”に閉じ込められる。

それでも開発を続ける理由は、
「特化」という言葉が“差別化できている気分”を生むからです。


まとめ:作りたくなるのは“合理的な誤解”の積み重ね

SES企業が業務効率化システムを作りたがる背景には、

  • 身近で企画しやすい
  • 開発費を経費にできる
  • 自社の成功体験が強い
  • SES特化で勝てると思いやすい

といった “一見合理的に見える理由” が複数存在します。
市場構造・競争環境から見ると “誤解の積み重ね” になってしまったともいえるかもしれません。

そしてこの誤解が、
これまで何十社というSES企業が同じようにシステムを作り、
同じように失敗してきた根本原因なのかもしれません。


成功するにはどうすればいいか?

現実的に勝てる路線を考えたいと思います。

開発コストを徹底的に削減する

まず大前提として、
売上見込みは数千万円規模 にとどまります。
この規模で 1 億円以上の開発費をかければ、
ビジネスとして成立させるのは非常に困難です。

したがって、

  • 2〜3名の少数精鋭で開発・運用を回す
  • 年間人件費は 1,500〜2,000万円が限界ライン
  • 理想は 1 人で回せる設計にすること

このあたりが“黒字化の現実的なライン”と考えられます。

小さく分けて売る

「勤怠だけ」「契約だけ」「請求だけ」「案件だけ」
といった 単機能の小さなプロダクトとして提供し、
まずは導入のハードルを下げる――という戦略があります。

単機能なら SES 以外の業種にも販路を広げやすく、
徐々に売上を積み上げることができます。

そして本命の SES 向けには、
全部入りプランを“単品より割安”に見える価格で提供する
クロスセル戦略をとる、という流れです。


ただし、デメリットも大きい

大手 SaaSもまったく同じ 単品 → クロスセル の戦略を展開しています。

その結果、

  • 単機能では大手とガチンコ勝負になる
  • 価格・機能で勝ちにくい
  • 「SES特化」の個性が薄れる
  • 本命ターゲットの SES企業から選ばれにくくなる

という矛盾が発生します。


連携機能を入れない

freeeやマネーフォワードと連携すると、ユーザーにとっては便利ですが
保守コストが跳ね上がる要因 になります。

  • 障害の原因切り分けが困難
  • 仕様変更に都度追従が必要
  • API廃止や制限に振り回される
  • テスト工数が膨大になる

これでは少数体制での運用が破綻します。

そこで戦略としては、

連携は標準では“入れない”。
・必要な企業にはカスタマイズ対応(追加料金)で提供する。

こうすることで、

  • 運用負荷を抑えられる
  • 追加開発としてアップセルにもつながる

というメリットが得られます。

ただし注意点として、
連携を無料標準機能として提供している大手SaaSも多い ため、
「それなら大手を使うよ」と言われる可能性がある点は認識しておく必要があります。


まとめ:成功の鍵は“引き算”にある

この市場で勝つポイントをひと言で表すと、

やることを増やすより、やらないことを決める。

  • 小規模チームで運用できるか
  • 単機能で勝負してクロスセルを狙えるか
  • 連携や複雑な機能を“あえて外す”勇気があるか

大手と同じ土俵で戦うのではなく、
小さく絞った領域を確実に押さえる ことが、成功に近づく唯一の方法だと考えられます。

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